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2023.5.1 弁理士 野口 富弘
1.事案の概要
原告は、被告が有する、名称を「作業機」とする特許発明(特許第5976246号)が、本件特許発明の出願前に公然実施された原告製品に係る発明と同一であるとして無効審判を請求しました。特許庁は、本件特許発明の構成が原告製品の外観のみから認識できる性質のものではないとして、本件審判の請求は成り立たないとする審決をしました。本件は、原告が本件審決の取消しを求めて訴訟を提起した事案です(令和3年(行ケ)第10137号)。
2.本件特許発明
作業機と走行機体(トラクタ等)とを接続するフレームに固定された第1支点を中心にして下降及び跳ね上げ回動可能なエプロンと、フレームに固定された第2支点とエプロンに固定された第3支点との間に設けられ、両支点間の距離を変化させる力を作用させてエプロンを跳ね上げる方向に力を作用させるガススプリングを含むアシスト機構とを具備し、「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する(構成要件G)」、圃場を耕耘する作業機です。
(注)作業機によって掘り起こされた圃場をエプロン先端の整地板が平坦にします。
3.主な争点
本件特許の出願前に本件特許発明の構成要件Gに係る構成が公然実施されていたか。
4.知財高裁の判断
知財高裁は、「原告製品を見た当業者は、力学的な技術常識から構成要件Gを認識できる」との原告の主張に対して、
「本件明細書等を検討すれば、前述の構成要件Gを具備するか否かは、アシスト機構で採用されるガススプリングの特性(ストローク長とガス反力の関係等)に依存するから、外観のみから認識できる性質のものではない」との本件審決の判断を認めた上で、
本件審決は、本件明細書の記載から導くことができる本件発明の技術的思想を、展示会において展示された原告製品を見ることによって認識できると判断したものではなく、当業者が原告製品を見て理解できる技術的思想が、本件明細書の記載から理解できる、再現可能な技術的思想と同じであるとはいえないから、本件特許発明の構成要件Gに係る構成が公然実施されていたと認められないと判断して原告の請求を棄却しました。
また、知財高裁は、展示会において実際に見学者がアシスト機能を体験したことを示す証拠(例えば、体験方法の説明資料や説明者が適切な体験方法を促した事実)はないと判断して原告の主張を認めませんでした。
5.「公然実施された発明」と認められるには
特許法29条1項2号の「公然実施」とは、発明の内容を不特定多数の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいい、物の発明の場合には、当業者が対象製品を外部から観察する等によって発明の内容を知り得ることをいいます。さらに、発明の内容を知り得るといえるためには、対象製品を外部から観察する等によって、当業者が発明の技術的思想の内容を認識することが可能であり、かつ認識できた技術的思想を再現できることが必要です。
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