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発売前に特許出願を

〜無効理由による権利行使の制限〜


2023.6.1 弁理士 水沼 明子

 特許出願よりも前に、公然実施されていた発明は原則として特許権を得ることはできません。仮に特許権を得た場合であっても、無効理由があるため権利行使はできません。このような無効理由により権利行使できなかった事例を紹介します。

1.事件の概要 (令和3年(ワ)第4920号 特許権侵害行為差止等請求事件)
 原告は、特許6708764号(以下本件という)の特許権者です。被告は、原告と代理店契約を結び、原告から購入した原材料@および原材料Aを使用した製品を製造販売していました。
 以下に主な時系列を示します。

2018.10頃 被告:原材料@を容器に詰めた製品@の製造販売開始。
2019.1.28 原告:本件の基礎となる特許を出願。
2019.2.7 原告:本件を出願。
2019.2.7以降

被告:原材料Aを10倍に希釈して容器に詰めた製品Aの製造販売開始。
    製品@と製品Aとの商品名等は同一。

2020.5.25 本件登録
2020.6頃 被告:製品Aの原材料の購入元を他社(訴外)に変更。
2020.6.24 被告:原告に対して代理店契約解除を通知。7月に代理店契約解除。
2020.8.21 原告:被告に対して別件訴訟(売買代金の支払いを求める訴え)を提起。

 原告は、本件登録日以降の製品Aの販売は、本件の請求項3(独立項)を侵害すると主張して、差止および損害賠償を請求しました。

2. 裁判所の判断
1)被告製品が本件特許権を侵害するか  製品Aは本件特許権を侵害すると判断されました。
2)本件に無効理由があるか
 被告による製品@の製造販売が本件の公然実施に該当するか否かが争点になりました。
 原告は、原材料@と原材料Aとでは製造方法が異なるため、成分も当然異なり、製品@は本件の公然実施に該当しないと主張しました。しかし原告は、成分の相違を示す証拠を提出していません。
 被告は、原告が別件訴訟の準備書面に、原材料Aを10倍に薄めたものが原材料@である旨を記載したことを、本件訴訟において主張しました。
 被告は、2018.11.12(本件基礎出願前)に原告から納入された原材料@のボトルの一部を開封せずに保管しており、2021年に2箇所の外部機関に分析を依頼しました。分析結果より、原材料@の成分(=製品@の成分)は、本件に規定された成分と一致すると判断されました。
 以上により裁判所は、本件の基礎出願日以前に販売された製品@により、本件発明は公然実施されていたと認定し、本件には無効理由があるため権利行使できないと判断しました。

3. まとめ

 原材料@を被告に販売する前に本件を出願していれば、原告は権利行使できたと考えられます。製品の販売開始前には、特許出願の漏れがないか確認することをお勧めします。
◆特許に関するご相談は、お気軽に河野特許事務所までお問い合わせください。

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