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2023.7.3 弁理士 難波 裕
請求項を補正する際に、明細書における発明の詳細な説明の記載に基づいて、上位概念化した表現で補正したいケースはしばしば生じます。本号では、そのような補正を適法と判断した判例を紹介します。
1.事件の経緯(令和4年(行ケ)第10092号)
本件は、拒絶査定不服審判の中で受けた拒絶理由通知に対する補正が、新規事項の追加(補正が当初明細書等に記載されていない事項を追加するものであるとする拒絶理由)に該当するとして却下された審決に対する取消訴訟です。本願発明は、対戦ゲームに対するユーザの興味を増大させることを目的として、不特定多数のユーザから対戦相手をマッチングする際に、同程度の「強さ」のユーザを抽出する発明です。
出願人は、そのゲームにおける「強さ」を「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さ」と限定する補正を行ったところ、審判では、明細書にはゲームにおける「強さ」として「攻撃力及び防御力の合計値」しか記載されていないにも関わらず、当該補正は「攻撃力及び防御力の合計値」以外のパラメータもゲームの「強さ」に含むものであるから、新規事項の追加に当たるとして、補正は却下されました。
2.知財高裁判決
判決では、補正を却下したことは誤りであると判断し、審決を取り消しました。
判決では、本願発明の技術的意義は、強さに大差のある相手ではなく、ユーザに適した対戦相手を選択する点にあると説示しました。また、ゲーム分野における「強さ」には攻撃力及び防御力以外に体力、俊敏さ、所持アイテム数等が含まれることが技術常識であったことについて、審判の過程では当事者間に争いがなかったと指摘しました。
そして、上記した技術的意義に鑑みれば、「強さ」とはゲームにおけるユーザの強さを表す指標であって、ゲームの勝敗に影響を与えるパラメータであれば足りると解することが相当であり、技術常識上、あえて体力、俊敏さ、所持アイテム数等を除外し、「強さ」を「攻撃力及び防御力の合計値」に限定しなければならない理由は見出すことができず、言い換えると、「強さ」を「攻撃力及び防御力の合計値」に限定するか否かは、発明の技術的意義に照らして、そのようにしてもよいし、しなくてもよいという、任意の付加的な事項に過ぎないと認められる、と判示しました。
そのため、当該補正は新規事項の追加に該当せず、補正を却下したことは誤りであるとして、審決を取り消しました。
3.まとめ
審査基準に則して言うと、補正は明細書に記載された事項だけでなく「当初明細書等の記載から自明な事項」も含めて許されます。出願人は、補正が「自明な事項」の範囲内と言えるかどうか、発明の技術的意義や技術常識を踏まえて考える必要があります。
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