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2023.8.1 弁理士 新井 景親
特許を受ける権利は原則発明者に帰属します。一方で特許法は、従業員による職務発明につき、例えば勤務規則にて予め会社に特許を受ける権利を取得させることを定めた場合、特許を受ける権利は、その発生時から会社に帰属することを認めており、また特許を受ける権利を有さない者が特許出願し、特許権を取得した場合、特許を受ける権利を有する者への移転登録請求を認めています。
会社A(控訴人)の従業員であったBが会社Aの退職後、会社C(被控訴人)を設立して、特許出願し、会社Cが特許権を取得したところ、会社Aは会社Cに対し、当該特許権の特許を受ける権利は会社Aに帰属すると主張し、特許権の移転登録を地裁に請求しました。しかし請求は棄却され、会社Aは控訴しました(知財高裁、令和5年(ネ)第10030号、令和5年6月22日判決)。以下、控訴審について説明します。
控訴人/被控訴人の主な主張
会社Aは平成30年5月頃にBが職務発明を行ったと主張しました。平成30年5月時点において、会社Aは職務発明について、会社から要求があれば特許を受ける権利は、従業員及び会社が協議のうえ定めた額を会社が従業員に支払うことにより、会社に譲渡される、との規則(以下、規則1)を定めていましたが、会社AとBの間で協議も支払いもありませんでした。会社Aは、協議及び支払い無しに、職務発明につき会社Aを出願人として特許出願することは当然の運用であったため、規則1は空文化した規則であり、特許を受ける権利を会社Aに原始的に帰属させることにつき、会社Aと従業員の間で黙示の合意が存在していたと主張しました。
これに対し会社Cは、協議及び支払いが行われていない以上、規則1に基づき、Bから会社Aに特許を受ける権利は譲渡されず、また協議及び支払い無しに従業員から会社Aに譲渡していた運用をもって、黙示の合意があったとは言えないと反論しました。
会社Aは、平成30年9月3日に職務発明について、発明完成時に会社が特許を受ける権利を取得する、この規則は平成26年1月1日以降に完成した発明に適用する、という規則(以下、規則2)を制定し、規則2により、会社Aは特許を受ける権利を原始取得していると主張しました。
これに対し、会社Cは、職務発明規定に関する平成28年4月22日経産省告示第131号によれば、改定された基準を遡及的に適用するには、会社AとBの間で個別の合意が必要であるが、会社AとBの間で合意はなく、規則2を遡及適用できないと反論しました。
裁判所の判断
裁判所は、規則1につき、協議及び支払いが行われていないことから、特許を受ける権利の移転の合意があったと認めることはできず、また黙示の合意がされたことを認めるに足りる証拠はないこと、規則2につき、本件発明の完成日(平成30年5月頃)よりも後の同年9月3日に制定されていることから、同日までに既に発生している特許を受ける権利の帰属を原始的に変更できるものではないこと等を理由として、移転登録請求を認めませんでした。
考察
会社Aが規則1に従って協議及び支払いを行っていれば、Bから会社Aに特許を受ける権利は譲渡されたと考えます。適切に運用しなければ、規則に意味はないことに留意すべきでしょう
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