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特許分割出願の戦略的利用

〜競争相手の動向に合わせた権利取得が可能〜


2023.9.1 弁理士 八木 まゆ

 スマートフォンの人気ゲームを運営するCygamesが、コナミデジタルエンタテイメント(以下、コナミ社)から訴訟を提起されたことが2023年5月に発表されました。関連すると推測されるコナミ社の特許(特許5814300号、以下300号特許)の出願の経過情報を閲覧すると、色々な特許戦略の意図があるように見えます。
 というのも300号特許は、その分割数の多さが特徴的です。300号特許を基礎として、図1のような時系列で計18件の分割出願がされ、そのうちの17件が特許となっています。図1の日付は、各出願の出願日です。
図1
 最初の出願の300号が登録になった2015年10月に、同時に4件の分割出願がされています。その後の4年ほどは、各年1件のペースで分割出願がされ、2021年7月に同時に5件の分割出願がされています。コナミ社の野球ゲームのスマートフォン版は、図1中の△で示す2014年12月にリリースされており、事件の対象のCygamesのゲームは、図1中▲で示す2021年2月にリリースされています。

 300号特許では、なぜ、このように多数の分割出願がされているのでしょうか。
 特許法では、最初の出願に添付した明細書に記載されている事項から外れない範囲を権利の対象として、分割出願ができます(特許法第44条)。例えば、図2に示すように、最初の出願で認められた権利範囲が、明細書の一部でしかない場合、周知技術とは差異のある技術範囲で複数の特許を取り、重要なアイディアについて取りこぼしがないように保護することができます。 図2

 分割出願は時として、他社を牽制し攻撃的に使用するケースがあります。例えば、図2における範囲Xは、明細書に記載されているものの周知技術であって権利化が難しい技術範囲なのですが、この範囲Xに含まれる技術範囲Yに相当する競合製品(サービス)が開始されるケースがあり得ます。この場合、競合製品が侵害してこないよう、競合製品の技術範囲Yの少なくとも一部を権利範囲に含むように意図的に設定した分割出願をし、競合製品の販売を躊躇させたり、設計変更などをさせたりすることがあります。

 そして更に分割出願を行なってどこまでが権利化されるかが不明な状態を継続させ、明細書に記載した範囲で未だ権利化ができてない技術範囲を他社がサービスとして実施しないように牽制することもできます。
 このように、複数回の分割出願を経て広い権利範囲を網羅し、知的財産を攻守に戦略的に利用することがあります。

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