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2023.10.2 弁理士 山田 浩忠
1.事件の経緯
空調服の特許権(特許第6158675号)の無効審判で請求人の主張が認められなかった(特許維持)ため、知財高裁に提起しました。特許発明は、第一調整ベルトと第二調整ベルトにより、襟と人体の首との間に複数段階の予め定められた開口度で空気排出口を形成するものです。請求人は、空調服のカタログ等による公然実施発明(主引例)と、介護用パンツの先行特許文献(副引例)と組合せにより進歩性不備を主張しました。特許庁は、主引例の空調服は2本の紐で結ぶ際、首周りの空気排出口を調整し、副引例は使用者が容易に装着可能な介護用パンツを提供することを課題として腰周り個人差に応じて調整するものであり、目的や機能は異なり組合せの動機付けが無いとし、本件発明を進歩性具備としました。
2.知財高裁の判決[令和4年(行ケ)第10037号]
知財高裁は、技術分野の関連性に関し、「空調服も被服であり、空調服の当業者は被服に係る各種先行技術を参酌するのが通常であり、主引例に副引例を適用する動機付けの検討における両者の技術分野の関連性につき、空調服の空気排出口という細部まで一致しなければ関連性が薄いと解するのは、狭きに失するものとして相当ではない」としました。更に、解決課題の共通性に関し、特許権者の「主引例の課題は空気排出口の開口部を形成することであり、副引例とは異なる」主張に対し、「本件出願日当時、被服の技術分野においては、2つの紐状部材を結んでつないで長さを調整することや、そもそも2つの紐状部材を結んでつなぐこと自体、手間がかかって容易ではないとの周知かつ自明の課題が存在したものと認められる」とし、「当業者は、副引例につき、これを2つの紐状部材を結んでつないで長さを調整することが手間で容易ではないとの課題を解決する手段として認識するものと認めるのが相当である」としました。そして、知財高裁は、「主引例において、空気排出スペースの大きさを調整するための手段である2本の紐を結んでつないで長さを調整することが手間で容易でないとの課題を認識し、当該課題を解決するため、同じ被服の技術分野に属する副引例を採用するよう動機付けられたものと認めるのが相当である」として、進歩性を肯定した審決を取り消しました(進歩性否定にて特許無効)。
3.考察
主引例が製品カタログ等による非特許文献の場合、特許文献の場合と比較して解決課題の特定が困難となるため、副引例(特許文献)との組合せによる進歩性を主張する際に当該組合せの動機付けの論証が困難となることが想定されます。知財高裁の判断は、解決課題が明示的に記載されていなくても、「周知かつ自明の課題が存在したものと認められる」とした上で、公然実施発明(主引例)と先行特許文献(副引例)との組合せにより進歩性欠如とした点は、意義があると考えます。係る観点から、進歩性を検討するにあたり公然実施発明についても、その組合せ等について十分検討することが肝要であると思われます。
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