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2024.1.4 難波 裕
AI関連発明を特許の対象とするかどうか(発明該当性)の判断は各国で異なります。本号では、日中特許庁が今年発表したAI関連発明比較研究報告書*1から、「数学モデルの構築方法」が特許の対象となり得るかを判断した仮想事例を取り上げます。
1.事例概要(「AI関連発明比較研究報告書」の事例A-3)
本事例は中国審査指南に記載されている仮想事例で、学習する訓練サンプル数を増加させることにより、モデル構築の精度を高めた数学モデルの構築方法です。予め用意されている少量の訓練サンプル以外に、数学モデルが行う分類タスクに関連する他の分類タスクの訓練サンプルを用いて学習を行います。他の分類タスクの訓練サンプルを学習に追加することで、訓練サンプル数が少ないことによるオーバーフィッティングやモデル構築の精度の低さといったデメリットを克服することを目的とします。
2.日中特許庁の見解
日本特許庁は、本事例が「発明」に該当するとの見解を示しています。報告書によれば、「訓練サンプルの数が少ないことによるオーバーフィッティングやモデル構築の精度の低さというデメリットを克服する」という目的に応じた特有の情報の演算又は加工が、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働した具体的手段・手順によって実現されているから、「発明」に該当すると判断しています。
これに対し、中国特許庁(中国国家知識産権局)は、本事例は「発明」に該当しないとの見解を示しています。報告書によれば、「数学モデルの構築方法」はコンピュータ自体の構成や機能に技術的な変更をもたらすものではなく、また、「オーバーフィッティングやモデル構築の精度の低さを克服する」という課題は抽象的な数学的課題であり、具体的な技術的課題ではないと指摘しています。そして、本事例のモデル構築方法は抽象的なプロセスであり、特定の応用分野に結びついていないから、中国では保護対象にならないと判断しています。
3.まとめ
中国特許庁の見解は、発明が特定の応用分野と結びついていれば変わるものと思われます。従って、発明(AI)の具体的な技術分野への適用例を出願に記載しておくことが重要であると考えます。
ところで、米国特許商標庁は発明該当性(特許適格性)の審査の仮想事例集*2を公表しており、その中に、上記の「数学モデルの構築方法」と似た事例として、「顔検出のためのニューラルネットワークをトレーニングする方法」が記載されています(事例39)。米国特許商標庁はその事例を特許適格性ありと判断していますが、当該事例は「顔検出のための」という具体的な応用分野と結びついています。これに対し、上記の「数学モデルの構築方法」は抽象的アイデア(数学的概念)であり、抽象的アイデアを実用的な応用に組み込む追加の要素も無いことから、米国では特許適格性を有しないと判断される可能性が高いと考えます。
*1 https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/document/ai_jirei/cn_ai_report_ja.pdf
*2 https://www.uspto.gov/patents/laws/examination-policy/subject-matter-eligibility
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