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2024.4.2 弁理士 山田 浩忠
1.事件の経緯
シガレットの特許権(特許第6131244号)の侵害訴訟「東京地裁:令和2年(ワ)第25891号」で原告(特許権者)の主張が認められなかったため、原告は、知財高裁に控訴しました。特許発明は、フィルタ要素の第1繊維性フィルタ材において、タバコロッドからマウス端に延在するチャネルが形成され、第1繊維性フィルタ材は煙変性剤を含み、主流煙は煙変性剤に実質的に接触することなく通過することを特徴とします。東京地裁は、「被告製品の加熱式たばこは、煙変性剤に相当するメンソールがフィルタの全域に塗布され、主流煙が煙変性剤に実質的に接触する」ため非侵害と判断しました。
2.知財高裁の判決[令和5年(ネ)第10015号]
被告製品は、メンソールが全域に塗布されたフィルタ要素を有し、フィルタ要素は、タバコロッドからマウス端に至るまでに3つの区画を含みます。タバコロッドの最も近い区画は、第1繊維性フィルタ材に相当する繊維材により筒状に構成され、中空(チャネルに相当)となっています。他の2つの区間は中空(チャネル)が形成されていません。原告は、請求項の「1つ以上のチャネルが、第1繊維性フィルタ材内に形成され且つ第1繊維性フィルタ材を通って少なくとも部分的に長手方向に延在」及び明細書の「チャネルは、主流煙の特定の内容物が煙変性剤に接触することなくフィルタ要素を通って進行することを可能」、並びに審査段階の意見書(主流煙が煙変性剤と実質的に接触せずにチャネルを通過することに係る想到困難性について記載)を主張の根拠としました。そして、フィルタ要素は、チャネル形成部とチャネル非形成部とがあり、チャネル形成部でのみ主流煙は煙変性剤に実質的に接触せず通過すればよく、チャネル非形成部では実質的に接触しても特許範囲に含まれると主張しました。
知財高裁は、「本件発明は、フィルタ要素内にチャネルを設けることにより、主流煙と煙変性剤とを実質的に接触させず、気相成分を除去しつつ、実質的に改変されない味質及び望まれ得る官能的特徴を有する主流煙を生成するものと認められる。そして、そのような作用効果に照らすと、本件発明は、フィルタ要素の全体において、主流煙と煙変性剤との実質的な接触を回避する発明であると認めるのが相当である」とした。更に「意見書は、単にチャネルに関する想到困難性の記載のみであり、チャネルが形成されている部分のみにおいて主流煙の味質等が実質的に変更されないことを規定した発明であることが裏付けられるとはいえない」とし、非侵害と判断しました。
3.考察
請求項において、「主流煙は、煙変性剤に実質的に接触することなく通過」等の構成要件は作用的記載と称され、当該作用的記載においては、発明におけるどの部位、すなわち構造的事項との関連性を定義することが必要と考えます。本件の場合、フィルタ要素全体に当該作用的記載が係るものとなり、非侵害と判断されました。もし、「フィルタ要素の少なくとも一部において実質的に接触しない」とし、その際の作用効果を明細書で十分に記載していたら、知財高裁の判断は異なったのではないかと、思われます。
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