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AIは発明者と認めない

〜 東京地裁、発明者は自然人に限ると判断 〜


2024.6.3 弁理士 水沼 明子


 過去数回の本ニュースにて、「DABUSと名付けられた機械(A machine called "DABUS")」を発明者とする特許出願に関する各国の判断について紹介してきました。このたび、日本の裁判所での判断が出たため、概要を紹介します。

1.事案の概要(東京地裁令和5年(行ウ)第5001号 出願却下処分取消請求事件

 基礎出願は、「DABUS」と名付けられたAIを発明者とする、2件の欧州特許出願です。パリ優先権を主張して、1件のPCT出願が行われました。出願番号はPCT/IB2019/057809です。
 本件は、このPCT出願を国内移行した出願に対する出願却下処分の取り消しを求めた裁判です

2.特許庁の処理
 原告は、発明者の氏名欄に「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載した国内書面を特許庁に提出しました。出願番号は特願2020-543051です。
 特許庁は、発明者の氏名欄に自然人を記載するよう、補正命令を出しました。しかし原告は補正命令には従わず、補正は不要である旨の上申書を提出しました。特許庁は、国内書面に方式違反があることを理由として、出願を却下しました。
 その後、原告は審査請求しましたが、特許庁は棄却しました。

3.裁判所の判断

 争点は、「特許法にいう『発明(特許法第二条第一項)』とは、自然人によるものに限られるかどうか」です。
 裁判所は、現在の特許法は、発明者が自然人であることを当然の前提としており、AIが発明者になることは想定されていないと判断しました。そのため、自然人ではない「ダバス」を発明者とする特許出願を却下した特許庁の判断は適法であると認めました。
 裁判所は、AI発明に関しては、現行法の解釈のみではAIがもたらす社会経済構造の変化を踏まえた的確な結論を導けない派生的な問題が多数生じるとして、立法論の検討(特許法および民法等の法改正の検討)が必要である旨を判決文に付言しています。以下に判決文中に示されている派生的な問題の例を挙げます。
 仮にAIを発明者と認める場合、  
 ・自然人が想定されている「当業者」の概念を、AIに適用することが適切か?
 ・AIによる発明の権利の存続期間は、現行法と同一で良いか?
 ・AIによる発明の権利を得るのは誰か?

4.海外の状況
 2021年10月の本ニュースにて、オーストラリア連邦裁判所が「AIは特許法上の発明者になり得る」と判断して特許庁に差し戻した件を紹介しました。しかし、その後の控訴審においては、発明者は自然人に限られると判断されて、判決が確定しました。
 米国、英国、欧州、中国、韓国等でも、同様の判断が出ています。
 2021年10月の本ニュースで紹介した通り、南アフリカ共和国では、特許権が付与されています。

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