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2024.9.2 弁理士 八木 まゆ
ユーザに対してサービスを提供するシステムに関し特許を取得するケースでは、サービスの提供に受け手又は提供者などの「人の動作」が不可欠な場合に「発明該当性」が問題となることがあります。「人の動作」が含まれる特許出願は多くの場合、「発明」に該当しないと判断されますが、このようなシステムに関して特許を取ることはできないのでしょうか。
◆「発明該当性」の判断のされ方
審査基準では、特許請求の範囲で規定される課題解決のための手法が「専ら,人の精神活動,人為的な取り決めそれ自体に向けられている」場合は発明に該当しないとされています。
「髪の毛のカット手法を分析する方法」(特願2019-160189)の「発明該当性」を争った裁判(令和3年(行ケ)第10052号)において、知的財産高等裁判所(以下、知財高裁)は、特許請求の範囲に記載された要素は「専ら人の精神活動それ自体に向けられたものである」から、発明に該当しないと判断しました。経験の浅い美容師がカット手法を決めることが困難であるという課題に対する本件の特許請求の範囲は、
「写真、画像、イラストまたはデッサンから、(中略)ヘアスタイルを推定する第1のステップ」、
「分析対象セクションを(中略)選択する第2のステップ」、
「第2のステップで選択したセクションに対して(中略)分析結果を得る第3のステップ」、及び
「分析結果から、前記カット手法に関する情報を導出する第4のステップ」
を含み、それらのステップの主体を記載していません。処理の主体がプロセッサであれば、「発明該当性」を満たしそうな表現ですが、本件の明細書には「完全機械化してもよい」との記載はあるものの、機械化した場合の構成や処理の説明がなく、専ら「人による手順」と解釈されるものと判断されることから、特許請求の範囲で人が行うことを排除していない以上は、精神活動そのものであって発明該当性がないと、知財高裁は判断しました。
◆「発明該当性」の要件を満たすには
本件に先立って、「双方向歯科治療ネットワーク」事件(平成19年(行ケ)第10369号)、「いきなりステーキ事件」(平成29年(行ケ)第10232号)などでは、人の精神活動による行為が含まれていることのみをもって「発明」に該当しないと判断すべきではない、と知財高裁が判断するケースがありました。これらの過去の判決を踏まえて、本件でも、「人による手順が含まれている」という理由のみならず、各ステップが、分析者が「知識」を頭の中で利用するものであって、人の精神活動として完結するものと解釈でき、分析者の外部的環境に何らかの物理的作用を及ぼすものでない、という理由にも触れている点で、整合性がとられた判決と言えます。
ここで、「分析者の外部的環境に何らかの物理的作用を及ぼすものでない」という指摘は、逆に、人の動作が含まれていたとしても、「外部的環境に何らかの物理的作用」を及ぼすものとして記述され、課題を解決する技術手段を提供するものと認められれば、「発明」に該当し得る、というヒントと捉えることができます。上述の事件の例であれば、経験が浅い美容師の判断を支援するという課題を解決するために、美容師による自分の経験のレベルを入力する操作という動作に応じて、プロセッサが、そのレベルを示すデータを用いた演算によっておすすめのカット手法を出力する、といった構成が含まれていれば、「発明」に該当すると判断された可能性はあります。人の動作そのものではなく、その動作によって生じるデータを処理する構成をとらまえて表現することで、人の動作を必須としたシステムに関する特許取得は可能になります。
◆特許出願に関するご相談は河野特許事務所までお気軽にお問い合わせください。
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