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特許無効となる引例の組合せ

〜進歩性における組合せの動機付けは一般的課題も判断〜


2024.10.1 弁理士 山田 浩忠

1.事件の経緯
 電動工具の特許権(特許第4362657号)の侵害訴訟「大阪地裁:令和2年(ワ)第4913号」で被告(侵害者)の主張が認められなかったため、特許権は有効とされ、被告製品による特許権の侵害が認定されました。
 特許発明は、電動式衝撃締め付け工具に関し、アウタロータ型電動モータを備えることを特徴とします。大阪地裁において、被告(侵害者)は、インナロータ型電動モータの電動式衝撃締め付け工具が開示された主引用発明と、アウタロータ型電動モータが開示された副引用発明との組合せが容易であり、特許権は、進歩性欠如により無効であると主張しました。これに対し、大阪地裁は、主引例発明は、トルク制御を課題とし、モータ自体に課題を有する発明ではなく、出力トルクの大きいモータを採用することが示唆されているとはいえないと、判断しました。
 その上で、副引例発明は、モータの高トルク化を課題としており、高トルク化やモータに関する課題が示唆されていない主引用発明に、副引用発明を適用する動機付けは無く、これら引例の組合せによる進歩性欠如には、理由が無いと判断しました。従って、特許権は有効であるとされ被告の侵害が認定されたため、被告は、知財高裁に控訴しました。

2.知財高裁の判決[令和5年(ネ)第10063号]
 知財高裁は、「主引用発明は、回転駆動源に電動モータを使用したトルク制御式パルスツール(ねじ締めツール等)の技術分野に属するものと認められ、副引用発明は、電動手工具に応用される電動モータの技術分野に属するものと認められる。そして、回転駆動源に電動モータを使用したトルク制御式パルスツール(ねじ締めツール等)は、電動手工具の一種であると認められるから、主引用発明と副引用発明は、いずれも電動手工具に使用可能な電動モータに関する技術として、技術分野を共通にするものと認めるのが相当」として、技術分野の同一性を認定しました。その上で、「電動式衝撃締め付け工具においては、電動モータの出力トルク自体を大きくすることが一般的に要請されており、主引例発明は、電動モータの出力トルクを大きくするとの課題を有していた」として、明細書には記載されていない課題でしたが、主引例発明における一般的な課題であると認定しました。従って、「当業者において、主引用発明に副引用発明を適用する動機付けがあったものと認めるのが相当」として、主引用発明と副引用発明との組合せにて進歩性欠如とし、特許発明は無効であり非侵害であると判断しました。

3.考察
 特許出願の審査段階においては、発明が属する技術分野の同一又は関連性に応じて、引例の組合せの可否が判断されますが、特許査定がされた後は、特許有効の推定が働くこともあり、大阪地裁は判断を見誤ったのではと想定されます。従って、主引例発明の明細書にて記載されている課題等にかかわらず、主引例発明の一般的な課題を認定した知財高裁の判決は妥当であると考えます。

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