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2024.11.1 弁理士 野口 富弘
1.事案の概要
名称を「塗装機器」とする被告の特許発明(特許第5976320号)について無効審判が請求され、「本件審判の請求を却下する」との特許庁の審決に対して、原告が本件審決の取り消しを求める訴訟を提起した事案です(令和4年(行ケ)第10100号)。
2.本件特許発明
本件特許発明の特許請求の範囲は、「塗布剤を塗布する塗布機器を有する塗装機器であって、塗布機器が塗布剤ノズルから塗装剤を吐出するプリントヘッドであり、前記プリントヘッドが、少なくとも1m2 /分の面積塗装性能を発揮するように構成される、塗装機器」です。(一部割愛しています)
3.審決の内容
原告は、本件発明の「前記プリントヘッドが、少なくとも1m2 /分の面積塗装性能を発揮するように構成された」という発明特定事項は、機能的表現であって、その機能が当てはまる物を広く包含し得るから、特許法36条6項1号のいわゆるサポート要件に違反すると主張しました。サポート要件とは、特許請求の範囲に記載された発明によって課題を解決することができることが、発明の詳細な説明に記載されている必要があるという要件です。
特許庁は、発明の詳細な説明によれば、本件発明の課題は、塗装効率において適切な改良を引き出すことであり、当業者は、「前記プリントヘッドが、少なくとも1m2 /分の面積塗装性能を発揮するように構成された塗装機器」は、発明の課題を解決できると認識できるからサポート要件に適合すると判断しました。
4.知財高裁の判断
原告は、本件審決は、本件発明の課題は「適切な改良を引き出すこと」と認定しているが、本件発明の課題は、発明の詳細な説明に記載された複数の課題を全て解決することであるからサポート要件違反があると主張しました。しかし、知財高裁は、オーバースプレーの低減、オーバースプレー除去のための排水処理、下降気流及び防爆の各問題は、本件発明の主要な課題である「塗布効率の改良」に従属する副次的な課題であり、「塗布効率」を改善できれば「オーバースプレー」やそれに伴い生じる「排水処理」、「下降気流」及び「防爆」の問題が抑制されるという関係にあるとして、本件審決の認定に誤りはないと判断しました。
5.課題に対応する発明の記載について
発明の詳細な説明に発明が解決する課題を複数記載する場合がありますが、このような場合には、複数の課題それぞれについて、当該課題を解決できる発明を特許請求の範囲に記載するとともに、発明の詳細な説明に当該発明が課題を解決することができることを記載することが必要です。また、複数の課題のうち主となる課題を「発明が解決しようとする課題」の項目に記載し、特許請求の範囲(独立項)に記載した発明が当該主となる課題を解決できるように記載することが重要です。
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