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「あまおう」を知財で守る!

〜育成者権と商標権で農産物の価値を維持〜


2025.2.3 弁理士 新井 景親

近年、品質の高い日本の農産物の輸出が伸びる中、イチゴ及びぶどう等の品種が海外に流出する事例が相次ぎ、地方自治体及び農家が農産物の保護に乗り出しています。ここでは、福岡県(以下、県)による「あまおう」の取り組みについて説明します。

1.「福岡S6号」の開発、育成者権の取得及び通常利用権の許諾
 県はイチゴの品種「福岡S6号」を開発して、品種登録出願を行い、2005年1月19日に品種登録、つまり育成者権を取得しました。なお中国及び韓国でも品種登録しました。県は苗の供給者となるJA全農ふくれんに対し、苗の譲渡は県内の生産者のみに限定することを条件として、「福岡S6号」を販売・増殖等させることができる通常利用権の許諾を行いました。これにより、県内の農家の利益を確保することができ、また他の産地との差別化を図ることができます。更に栽培管理の指導が行き届く範囲内に限定することで、高い品質を維持することができます。

2.JAによる商標権の取得
 JAは「福岡S6号」の商標「あまおう」を商標登録しました。育成者権者である県は種苗の供給を管理し、通常利用権者・商標権者であるJAは果実の販売、及びその加工品の開発・販売を行い、これらの商品のブランドを育てることができます。県とJAの役割分担による苗の管理とブランディングを上手に実現させています。なお中国、韓国、香港及び台湾でも商標登録されました。

3.育成者権の存続期間満了後の対応
 2025年1月19日に「福岡S6号」の育成者権は、登録から20年(現在は25年(一般的な植物)又は30年(本木性植物))の存続期間満了により消滅し、県外でも生産することが法的に可能になりました。法的規制はなくなったものの、県外流出を抑制すべく、県は、生産は県内でのみ行うという誓約書を提出した生産者にのみ、苗を供給することにしています。これまで高い利益を生み出してきていることから、生産者が他県に苗を流出させる可能性は低いと考えます。
 一方、「あまおう」の商標権は今後も存続します。そのため、仮に県外で「福岡S6号」が栽培されたとしても、そのイチゴに対し、「あまおう」を使用することはできません。商標権によって「あまおう」の品質は今後も保証され、「あまおう」のブランド価値は維持されます。

4.品種名と商標
 上述のように、品種と商標とは異なる名称です。これは種苗法において、出願品種の名称が出願品種の種苗に係る登録商標と同一又は類似する場合、品種登録を受けることができないとされ(種苗法第4条第1項第2号、第3号)、商標法において、出願商標が、種苗法の品種登録を受けた品種の名称と同一又は類似の商標であって、その品種の種苗又はこれに類似する商品等について使用をする場合、商標登録を受けることができないとされているからです(商標法第4条1項14号)。なお、とちおとめは「とちおとめ」で品種登録したので、「とちおとめ」での商標登録はできませんでした。ご留意ください。

◆品種登録及び商標権について質問がある方は、お気軽に河野特許事務所までご連絡ください。

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