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2025.3.3 弁理士 八木 まゆ
Webサービスに関する知的財産権に基づき、国外の事業者が提供するWebサービスに対して法的措置を求めることができるのか否か、判断基準となる裁判例を紹介します
◆ 属地主義
日本国特許庁で登録される知的財産権は、日本に常時的に住んでいるか、若しくは居所が設定されている人又は日本法人により実施された行為か、日本で実施された行為に及ぶ権利です(属地主義)。国内に法人を持たない国外事業者による知的財産権の侵害が疑われる行為に対しては、その行為が日本で実施されていると判断されない限り、日本国の裁判所で裁判できません。
◆ 「日本で実施される行為」の判断基準
国外事業者が提供するWebサービスは、日本の端末から利用できるものであったとしても、サーバの一部又は全部が日本国外、さらには複数の国を跨いで存在することが少なくありません。「日本で実施された行為」は国外での実施を含まないことが属地主義の原則です。この点、2023年6月の弊所記事で取り上げられた「ドワンゴvsFC2(令和4年(ネ)第10046号)」の裁判の判決では、サーバの一部でも日本国内にあれば「日本で実施される行為」となると特許権の過剰な保護となり、サーバの一部でも国外にあれば「日本で実施される行為」としないのは十分な保護を図ることができない、と指摘され、案件毎に柔軟に、バランスを勘案して判断されるべきことが示唆されています。
上述の「ドワンゴvsFC2」の裁判では、対象システムに含まれる要素のうち重要な機能を発揮するものが日本に存在するか、対象システムの利用によって効果が得られる場所が日本かなどの事情を総合的に鑑みて、国外事業者である被告のサービスが「日本で実施される行為」であると判断されました。
その後、契約書のレビューサービスをWeb上で提供している在米事業者に対する日本の商標権者の訴え(令和5年(ワ)第70022号)では、当該サービスについては、(1)Webサイトは全て英語であり、(2)価格表には円での価格は表示されておらず、(3)問い合わせ先は米国の住所及び電話番号のみであることから、「日本で実施される行為ではない」と判断されました。
国内事業者の画像投稿Webサービスに、台湾の被告事業者が漫画をアップロードした行為に対する著作権違反の訴え(令和6年(ラ)第10002号)では、被告事業者が、日本国内で台湾人旅行者向けのサービスを実施していることに加え、投稿された漫画に関し、流ちょうな日本語で紹介文を記入している点を鑑みて、日本人向けのサービスであるから「日本で実施される行為である」と、知財高裁は判断しました。
◆ まとめ
多様なWebサービスには国外の事業者が提供するものが少なくない状況において、属地主義及び保護のバランスから、一律に「日本で実施される行為」を定義する条件を法的に決定することは困難です。上述したような、「日本で実施される行為」であると認めるための根拠を示す裁判例が蓄積されることで、判断基準が明確化されていくと考えます。このように、国外からのWebサービスであっても「日本人向けのサービス」であると認定できれば、知的財産権(特許権、商標権等)を根拠に法的措置を要求できるケースがあります。
◆ 知的財産権に関するご相談は河野特許事務所までお気軽にお問い合わせください。
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