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外部サービスを利用した発明の保護範囲

〜 アプリの機能連携が争点に 〜


2025.9.1 弁理士 八木 まゆ

 1つのアプリに、対応する店舗又はサービスに関する機能のみならず、他の決済サービス、他社ポイントサービス、チャットボットを利用した問い合わせサービス等、多様な外部サービスと連携することが可能なものが普及しています。今回、決済サービスを選択的に連携できるタクシー配車アプリに関し、その連携部分が争点となった裁判を紹介します。

1.事件の概要
 東京地裁令和5年(ワ)第70425号では、原告が、保有する特許第6128402号(以下、本件特許)に基づき、タクシー配車アプリ(以下、イ号アプリ)に対し、権利を侵害しているとして差止を請求しました。
 本件特許の請求項8は、「前記アプリケーションで提供されるサービスに関する情報を管理し」という発明特定事項を有しており、イ号アプリにてタクシー料金の支払いのために選択的に登録される他社の決済サービスが利用できることが、その発明特定事項を充足するか否かが、争点の1つとなりました。

2.裁判所の判断
 この争点に関し、東京地方裁判所は、本件特許における「サービス」は、明細書の記載を参酌すれば、「アプリケーションで提供されるサービス」と記載されている以上、アプリをインストールしたコンピュータに記憶されているアプリそれ自体で実現されるものであるべきであって、他社によって提供される外部サービスである決済サービスは、この「サービス」に該当しない、と判断しました。
 なお、本件特許の明細書には、「アプリケーション」の例示として「クレジットカードの機能を実現するサービスを提供するためのアプリケーション」又は「交通機関に乗り降りするときの料金の支払いなどのときに用いられるトランスポート系のサービスを提供するためのアプリケーション」を明記しています。一方で「サービス」は、アプリケーションと対応してチップに記憶されるとの記載や、「サービス」をレジストリ等に記憶することを「登録」と呼んでいると推測できる記載があります。

3.考察
 本事件において、権利範囲の解釈で参酌する明細書に、「サービス」はコンピュータに登録される、と何度も明記されているために、「サービス」はコンピュータに記憶されているアプリそれ自体で実現されるものであるべきとする判断は妥当と言えます。
 ただし、イ号アプリで登録できる他社の決済サービスが「アプリケーションで提供されるサービス」を文言上は充足している心証を与える点と、同明細書に「アプリケーション」が「交通機関に乗り降りするときの料金の支払いなどのときに用いられるトランスポート系のサービス」を提供するという記載がある点と、昨今では、冒頭に記したように多様な外部サービスを組み込んだアプリが多い点とを鑑みると、「外部サービスは対象外」との断定は、多くのアプリを本件特許の権利範囲外とし、極端ではないかと考えます。仮に、記憶される「サービス」が、支払用のICタグに記録されるデータ等であるように明細書に記載されていれば、一転して充足性の判断は妥当でなくなる可能性があります。「外部サービス」を一括りにして「対象外」とした判断は、釈然としない部分を残し、今後本件が上級審に進むのであれば、そこでの判断が待たれます。

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