ソフトウェアの特許の事なら河野特許事務所 |
![]() |
||
一覧 | トップ |
2025.10.3 弁理士 山田 浩忠
1.事件の経緯
オーディオコントローラの特許権(特許第6329679号)の無効審判で請求人の主張が認められなかったため、知財高裁に審決取消訴訟を提起しました。特許発明は、オーディオ信号に基づいて、所定の焦点位置で集束する位相差を有する超音波を、複数の超音波トランスデューサが放射するように制御することを特徴としており、リスナーの背後でのスピーカの設置を前提するオーディオシステムにおける、使用環境の制約を取り除くことを技術的課題としています。
請求人は、特許権者から試作機開発を依頼された開発請負業者であり、特許発明には、試作機を開発する際に請求人が独自に創作した技術が含まれ、請求人は発明者に該当するとして、冒認出願による無効を主張しました。
これに対し、特許権者(被請求人)は、請求人に開発委託をする際、既に実験機を完成し、技術的課題に対応した特徴的部分である「焦点位置で集束する位相差を有する超音波」の制御手段を実験機に実装していました。特許庁での無効審判において、請求人は特許発明の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)を着想し、又は、その着想を具体化することに創作的に関与した者ではないから発明者に該当せず、特許は有効であると審決されました。
2.知財高裁の判決[令和5年(行ケ)第10078号]
原告(開発請負業者)は、試作機開発にて独自に創作した2つの技術(@超音波トランスデューサと焦点位置との距離算出、A可聴音の焦点位置での集束)が、特許発明の特徴的部分に相当すると主張しました。
知財高裁は、「@焦点位置との距離算出」については、「出願時の既存技術であり、特許発明における制御手段が当然に備えることが通常想定されるものであり、特徴的部分であるということはできない」としました。「A可聴音の焦点位置での集束」については、被告(特許権者)が原告に開発委託を行う際に既に完成させていた実験機よりは、改良された技術であることを認めつつ、技術的課題に対応するものでないため、特許発明の特徴的部分に相当しないとしました。
その上で、知財高裁は、「試作機が備える可聴音の波形が焦点位置で集束するような位相差で放射し、焦点位置で可聴音の波形を揃える機能は、可聴音の音質を向上させるものであり、使用環境の制約の除去という特許発明の技術的課題に対応しないため、特徴的部分に相当しない。従って、原告試作機の機能は、被告実験機の開発によって本件発明が完成していたとの認定を覆すものでは、ない」とし、「原告は特許発明の特徴的部分を当業者が実施することができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成した者ということはできず、発明者(共同発明者)ではない」としました。従って、特許発明の発明者は被告のみであり、冒認出願に該当せず特許は有効と判示されました。
3.考察
要素技術の研究開発を行う組織が、当該要素技術を適用した製品を開発するにあたり、各種の実装技術を有する開発請負業者に開発委託を行うことは、日常的に発生し得る商形態といえます。開発請負業者の観点からは、製品化する際の種々の課題を抽出し対応することにより技術開発が行われ、この際、要素技術自体に対する改良が行われることも想定されます。
本件においては、開発請負業者である原告は、音質の観点から、被告の要素技術の改良を行っており、自身も発明者に含まれると主張したとも考えられます。しかしながら、発明者は「技術的課題の解決手段に係る発明の特徴的部分の完成に現実に関与した者」であり、原告の開発技術は技術的課題に対応しないため、原告は発明者に該当しないとされました。
なお、本事案の発生要因は、被告が原告に開発依頼をする前に出願していなかったこと、及び試作機開発にて発生した知財権帰属に関する契約が行われていなかったことであり、開発依頼を行う際は事前の出願及び契約が必須であると考えます。
◆ 特許出願に関するご質問・ご相談は河野特許事務所までお気軽にお問い合わせください。
Copyright(c) 河野特許事務所