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選択肢を有する特許発明構成要件の解釈

〜 「少なくともいずれか一方」の解釈 〜


2025.11.1 弁理士 野口 富弘

1.事案の概要
 被告製品は、名称を「遠隔操縦無人ボート」とする原告の本件特許発明(特許第3939710号)の技術的範囲に属するとして、原告がした損害賠償の請求に対して、原審が請求を棄却したので、原告がその取り消しを求めて控訴した事案です(令和6年(ネ)第10084号)。

2.本件特許発明の争点
 被告製品が、本件特許発明の構成要件「前記第1送受信アンテナにより一定時間以上前記遠隔操舵装置からの信号を受信しなかったと判断された場合(以下、「自動回帰発動条件@」)、または、前記電源の残量が半分以下になったと判断された場合(以下、「自動回帰発動条件A」)のうち、少なくともいずれか一方の判断が行われた場合に、前記初期位置に自動回帰させるため、前記現在位置および前記初期位置に基づいて、前記推進動力源と前記操舵装置との動作を制御する第1制御装置」を充足するか否か。

3.原審の判断
 原審は、本件特許発明は、(1)遠隔操舵装置との通信途絶及び電源残量の不足という事態においても必ず回収できる遠隔操縦無人ボートを提供することを解決課題とするものであり、この課題を解決する作用効果を奏するために、自動回帰発動条件@に係る判断と自動回帰発動条件Aに係る判断のいずれもが行われ得る構成を備えることを前提とするものであること、(2)本件明細書には、いずれか一方の構成のみを備えるものが本件特許発明の技術的範囲に含まれることの明示的な記載も示唆もないとして、「自動回帰発動条件Aの場合に自動回帰のための動作制御を行うという構成」を備えない被告製品は、前記構成要件を充足しないと判断しました。

4.知財高裁の判断
 知財高裁は、原審と同様の判断をし、原判決は相当であるとして、原告の控訴を棄却しました。

5.「少なくともいずれか一方」の如く選択肢を有する構成要件の解釈
 一見すれば、いずれか一方の判断を行う機構を備えればよいと思われます。しかし、本件明細書には、遠隔操縦装置との通信途絶及び電源残量の不足という事態においても、必ず回収できる遠隔操縦無人ボートを提供するという解決課題が記載され、また、所定時間内に受領信号を受信しなかった場合と電源残量が所定値以下になった場合の両方の場合を確かめる実施例が記載されていることから、本件特許発明は、その両方の事態に対処できるようにすることを要すると解されました。
選択肢を有する構成要件については、それぞれの選択肢に対応する課題のみの記載及び実施例のみの記載が必要であると思われます。

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