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誤訳を理由とした原文の記載内容自体の訂正は不可! 

〜無効理由を解消するための恣意的な誤訳訂正は
認められず、特許維持審決が取消〜


2026.4.7 弁理士 山田 浩忠

1.事件の経緯
 本件特許(特許第6328108号)の発明は、車両の側部から伝わる横からの力を、側面衝突保護部によってシートシェルに導くチャイルドシートです。本件特許は、ドイツ語原文のPCT出願を国内移行したものであり、無効審判にて争われた進歩性に対し、誤訳訂正を目的とした訂正請求によって特許維持とされたため、無効審判の請求人は、知財高裁に提起しました。

2.知財高裁の判決[令和6年(行ケ)第10100号]
 被告(特許権者)は、明細書においてドイツ語原文の「linear」に対し、「直線的」から「直接的」に訂正し、請求項において「前記車両の側部から前記チャイルドシートに伝わる横からの力を子供の体に『直接的』に伝達するのではなく前記シートシェルに導く」としました。ドイツ語では「linear」は「直線的」を意味しますが、被告は、「直線的」という単一の訳語のみに着目し当該「直線的」自体が誤訳であるため「直接的」と訂正したものではなく、全体として意味内容が原文に忠実となることを目的として訂正したと、主張しました。この際、訂正の対象以外の段落の記載「チャイルドシートの子供に直接(unmittelbar)影響を及ぼすのではなく」を参照して訂正の根拠としていています。
 これに対し、知財高裁は、誤訳訂正においては、二つの要件「@国際出願日における国際出願の明細書、請求項の記載と、設定登録時の明細書等の記載の意味が、誤訳により異なること、A訂正後の記載は、原文の記載の意味を表すものとして、両記載の意味が一致すること」を満たすことが必要であるとしました。その上で、訂正前の「直線的」の意味が、翻訳の誤りにより原文の「linear」の意味と異なるものということはできないから、要件@を満たすものといえず、訂正後の記載が原文の記載の意味を表すものと一致するものともいえないから要件Aも満たさず、誤訳の訂正には当たらないとしました。更に、訂正事項が2つの要件を満たすか否かを判断するために、訂正の対象以外の記載を参照する余地は基本的にないとし、訂正を認め無効審判請求を不成立(特許維持)とした審決を取り消しました。

3.考察
 本件では、原文での単語レベルでの記載「linear」に対し、当該記載の意味内容を変更(直線的⇒直接的)する訂正が行われたものと考えます。すなわち、訂正前の明細書での翻訳(linear=直線的)は、辞書による逐語的な訳に相当するものであり誤訳に相当せず、訂正後での翻訳(linear=直接的)は、訂正請求の目的を越えた不適切な訳に相当すると思われます。本件での根本的な要因は、日本語への翻訳でなく、ドイツ語の原文にあるのは明白であり、原文にて、linear(直線的)でなくunmittelbar(直接的)と記載されていたなら、訂正請求は正当であったと考えます。原文の記載に瑕疵があったとしても、当該瑕疵を解消するための誤訳訂正は許容されないことに十分留意する必要があります。

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