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2026.7. 1 弁理士 難波 裕
パリ条約の加盟国(第1国)において特許出願した者は、他の加盟国に特許出願する場合に、第1国における出願日を基準に新規性・進歩性等の判断を受けることができ、この権利をパリ条約に基づく優先権と言います。特許を受ける権利やパリ優先権は原始的には発明者に帰属し、企業・大学等が出願人となってパリ優先権を主張する特許出願をする場合、特許を受ける権利だけでなくパリ優先権を発明者から譲り受ける必要があります。本号では、パリ優先権承継の適法性を争った日本の判例を紹介します。
1.事件の経緯(令和7年(行ケ)第10019号)
特許第6203897号は、米国仮出願に基づくパリ優先権を主張した国際特許出願(PCT出願)により成立した日本特許ですが、本件特許に対して無効審判が請求されました。本件特許は米国のブロード研を含む3者が出願人となったものでしたが、優先権主張の基礎となった仮出願の出願人及び発明者には、本件特許の出願人ではないロックフェラー大のD博士が含まれており、D博士から優先権を承継したロックフェラー大から、出願人であるブロード研が優先権を適法に譲り受けたかが無効審判の争点となりました。
無効審判では、ブロード研がロックフェラー大との協議を通じて優先権を適切に承継した事実を示す証拠(譲渡証書)が提出されていないなどの理由で、優先権承継の適法性が否定され、新規性・進歩性違反で本件特許を無効とする審決が下されました。ブロード研等の特許権者はこれを不服として知財高裁に提訴しました。
2.知財高裁判決
知財高裁は、以下の理由で、優先権承継の適法性に関する本件審決の判断には誤りがあるとして、審決を取り消しました。
@ロックフェラー大側の陳述書やブロード研側の陳述書などによると、両者の間で優先権の譲渡がなされた点で認識が一致している。
APCT出願を行うにあたり、ロックフェラー大を含む各当事者の同意を得て弁護士による発明者調査が実施され、出願人が定められた。調査結果についてD博士及びロックフェラー大は不満を持っていたものの、その不満を何らかの形で表明することはなかった。また、発明者調査の結果に基づき、各当事者により、本件PCT出願を含む複数のPCT出願が行われており、その中には、ブロード研等の原告だけではなく、ロックフェラー大も出願人となったPCT出願も含まれている。これらの事実によれば、ロックフェラー大とブロード研との間の優先権の承継について特段の紛争は存在せず、優先権の譲渡は有効になされたものと認められる。
Bパリ優先権の譲渡契約の有効要件とされる相互合意の表明及び約因の存在についても、当事者の行動や事実から認められる。
知財高裁は上記@〜Bを理由に、本件審決においてパリ優先権の承継を認めなかったことは誤りであるとして、審決を取り消しました。
3.まとめ
本判決は、パリ優先権の譲渡証書が存在しない場合に、当事者の行動などを見て優先権承継の適法性を判断することを示したものです。実務的には引き続き譲渡証書の作成が重要ですが、そのほかにも当事者間のやり取りを保存しておくことも重要であると考えられます。
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