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2026.10.3 弁理士 山田 浩忠
自社が出願前に提供していた「みまもりサービス」の公然実施発明と、携帯電話利用者の安否確認に関する特許公報を組み合わせることで特許発明の構成は容易に想到できるとして、東京地裁が特許権の行使を否定した事例を紹介します。
1.事件の経緯
本件特許発明(特許第7553163号)は、被見守り者用端末の位置情報から行動範囲を決定して見守り者に通知し、見守り者が設定したインターバルに応じて、被見守り者用端末の位置情報及びバッテリ残量情報を受信するモニタリングシステム等に関するものです。特許権者(原告)は、被告による「みまもりサービス」が特許権を侵害するとして、損害賠償を求めました。これに対し、被告は、原告が本件特許の出願前に開始していた「みまもりサービス」に関する公然実施発明等に基づき、進歩性欠如により無効であると主張しました。
2.東京地方裁判所の判決
[令和6年(ワ)第70478号、令和8年1月21日判決]
裁判所は、本件特許発明と公然実施発明との相違点に関し、公然実施発明では、位置情報は設定されたインターバルに応じて送信され、バッテリ残量情報も送信されるものの、バッテリ残量情報の送信タイミングは不明であり、位置情報とバッテリ残量情報を同時に送信する本件特許発明とは、異なると認定しました。その上で、携帯電話利用者の安否確認に関する発明が開示された引例(特許公報)には、安否確認のための端末が位置情報と電池残量を同じ通知メールに含めて送信する技術事項が記載されており、両者について、見守り・安否確認という技術分野、両情報の送信タイミングに関する課題、端末から両情報を送信する作用・機能が共通すると判断しました。その上で、公然実施発明で不明な残量情報の送信タイミングを位置情報と同時にする動機付けがあり、阻害要因も見当たらないとして、これら引例の組合せによって相違点に係る構成を想到容易と判断しました。
これに対し、原告は、電池消費を抑えるには変化の小さい残量情報を低頻度で送信するのが合理的であり、同時送信する動機付けはないと主張しましたが、裁判所は、公然実施発明の残量情報の送信頻度自体が不明であることなどから原告の主張を採用せず、無効にされるべきものと認め、権利行使を否定して請求を棄却しました。
3.考察
本件において、自社による公然実施発明に、携帯電話利用者の安否確認に関する特許公報を組み合わせれば、本件特許発明の全ての発明特定事項に相当するものであり、裁判所による進歩性に関する判断は、妥当であると考えます。その上で、自社サービスの公然実施が自己の特許を無効にする主たる引例発明となった点は、出願及び権利化を行う実務上、極めて重大な事象であるとも思われます。出願前に提供した製品・サービスについて、公開されていた機能や時期を調べ、その後に出願する特許の請求項との差異を把握した上で、先行技術から容易に想到できない程度の技術的特徴を請求項に反映させることが肝要であると考えます。
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