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2026.11.2 弁理士 野口 富弘
1.事案の概要
被告製品の製造販売等は、名称を「熱可塑性樹脂組成物」とする原告の本件特許権(特許第4974971号)の侵害に当たるとして、原告がした差止め等の請求に対して、原審が請求を棄却したので、原告が原判決の取り消しを求めて控訴した事案です(令和6年(ネ)第10026号)。
2.本事案の争点
「紫外線吸収剤の分子量が700以上」という構成を有する原告の数値限定発明について、紫外線吸収剤の分子式が、C42H57N3O6である被告製品の製造販売等が、文言侵害及び均等侵害に当たるか否か。
3.原審(大阪地裁)の判断
(1)原審は、分子式が、C42H57N3O6である紫外線吸収剤の分子量は、当業者の認識として699.91848となり、分子量が700以上ではないから、文言侵害は成立しないと判断しました。
(2)また、原審は、数値限定発明は、その数値の範囲内に技術を限定することで、その発明に対して特許が付与されたと考えられるから、その数値による技術的範囲の限定は特許発明の本質的部分に当たり、被告製品の「分子量が700以上ではない」との本件特許発明との相違は、特許発明の本質的部分に係る差異であるから、均等論の第1要件は充足せず、均等侵害は成立しないと判断し、原告の請求を棄却しました。
4.知財高裁の判断
(1)知財高裁は、控訴人(原告)が主張する「分子量が整数値で示される場合、少数点第1位を四捨五入した数値として示される」との技術常識が存在するからといって、特許請求の範囲に数値限定が発明特定事項として記載されている場合における当該数値の意義(クレーム解釈)に、当該技術常識がそのまま妥当するものではないとして、原判決と同様に文言侵害は成立しないと判断しました。
(2)また、知財高裁は、「分子量700以上」の数値限定の技術的意義について、分子量700又はその前後の数値を境として本件特許発明の効果に大きな影響を及ぼすと解されるような結果は示されておらず、「分子量が700以上」という数値限定は、臨界的な意義を有するものではなく、任意に選択して定めた数値と理解されるとした上で、分子量が699.91848の場合と700の場合との相違は、特許発明の本質的部分に係る差異ではないから、均等論の第1要件は充足すると判断しました。
(3)しかし、知財高裁は、分子量を「700以上」とする数値範囲を定めたということは、「700以上」か「700未満」かという線引きをもって特許発明の技術的範囲を画し、下限値「700」をわずかでも下回る分子量のものについては、技術的範囲から除外することを客観的、外形的に認めたものであるとして均等論の第5要件を充足せず、均等侵害は成立しないと判断し、本件控訴は理由がないとして棄却しました。
5.特許請求の範囲における数値限定の意義について
発明の作用効果との関係で技術的意義を有する数値がピンポイントではなく、広い幅にまたがる数字と考えられるような数値範囲に臨界的意義がない場合、「切りのよい数字」を選択して数値限定を行なっても、被告製品の構成等との関係において発明の本質的部分ではないとして均等論の第1要件を充足すると判断される場合があります。
しかし、逆に出願人が、あえてそのような数値を選択している以上、その数値範囲をわずかでも外れるものは、技術的範囲から除外することを客観的、外形的に認めたものとして扱われ、均等論の第5要件を充足しないとして均等侵害が認められないことに留意する必要があります。
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