一戸建て住宅の意匠権侵害訴訟の判決が出ました。多くのハウスメーカーではモデルプランを提供していますが、実際に建築される住宅の形状は一軒ごとに異なります。原告は、部分意匠制度を活用して、特徴的な住宅デザインの模倣品排除に成功しました。
1.事件の概要
事件番号:東京地裁 平成30年(ワ)第26166号
意匠権侵害差止損害賠償請求事件
対象意匠権:意匠登録第1571668号
2.対象意匠権の概要
意匠に係る物品は、「組立家屋」です。
部分意匠であり、右図の実線部分が権利範囲です。住宅の正面に、2本の柱(縦方向)と、 2本の梁(横方向)とが配置されています。 |
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3.裁判所の判断
争点は、(1)意匠権侵害の成否、(2)不正競争の成否(意匠権とは無関係)、(3)損害発生額、(4)差止の必要性の4点です。以下に、(1)の概要を説明します。
被告の住宅には、独立した2本の柱ではなく、凹字断面を有する1本の柱が中央の窪み部分を正面に向けた状態で使用されています。梁についても同様です。被告は、2本の柱および2本の梁の間に空間が存在しない点が、対象意匠権との相違点であると主張しました。しかし裁判所は、その相違点は意匠が起こさせる美観に決定的な影響を与えないと判断しました。
被告の住宅には、2本の柱が正面視で右寄りに設けられています。裁判所は、この差異は対象意匠権の要部に関する差異であると認定した上で、柱が住宅の中心に位置しない限り、意匠が起こさせる美観に決定的な影響を与えないと判断しました。これらの理由により、被告の住宅は、原告の意匠権を侵害すると判断されました。
4.まとめ
住宅のように、個々の製品の形状が異なる一品物の製品であっても、需要者の美観に主要な影響を与えるデザイン上の特徴部分を部分意匠として権利化することにより、模倣品を効果的に排除することが可能です。
5.法改正の影響について
対象意匠権は、2020年12月号の本ニュースで紹介した改正意匠法の施行前に登録されました。法改正により、現在では内装および建築物の意匠が認められています。
対象意匠権と共通の基礎意匠(意匠登録第1571205号)を有し、意匠に係る物品を「住宅」とした関連意匠(意匠登録第1683592号)が、改正意匠法の施行後に出願および登録済です。なお、「住宅」は建築物として特許庁が例示している物品の一つです。
一棟ごとにデザインされる建築物においても、特徴的な部分を部分意匠で権利化することにより、デザインを有効に保護できると考えられます。
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