ソフトウェアの特許の事なら河野特許事務所 |
閉じる | ||
一覧 | トップ |
2024.12.2 弁理士 水沼 明子
2023年6月の本ニュースにて、特許出願よりも前に公然実施されていたために、無効理由ありとして権利行使ができなかった事件を紹介しました。この事件は知財高裁に控訴され、権利行使が認められました。控訴審の判決について、紹介します。
1.事件の概要
(知財高裁令和5年(ネ)第10010号 特許権侵害行為差止等請求控訴事件
−原審:大阪地裁令和3年(ワ)第4920号)
1)原審の概要
原告は、特許6708764号(以下本件という)の特許権者です。被告は、原告と代理店契約を結び、原告から購入した原材料を使用した製品を製造販売していましたが、本件登録前に原材料の購入元を他社(訴外)に変更しました。原告は、本件登録後の被告製品の販売は、本件の請求項3(独立項)を侵害すると主張して、差止および損害賠償を請求しました。
裁判所は、被告製品は本件請求項3を侵害するが、本件の出願前に販売された被告製品により本件発明は公然実施されていたと認定し、本件には無効理由があるため権利行使できないと判断しました。原告は、知財高裁に控訴しました。
2)訂正審判について
原審の口頭弁論終結の翌日、原告は本件の訂正審判を特許庁に請求し、控訴審の口頭弁論終結前に訂正が認められました。請求項3に関しては、成分であるポリアリルアミン(構造式が明示されています)の重量平均分子量の範囲が、「500〜50000」から「500〜15000」に訂正されました。「15000」という数値は、本件明細書中に具体例として記載されていた三種類のポリマーのうちの一つの重量平均分子量です。
2.控訴審における裁判所の判断
1)被控訴人(原審被告)製品が本件特許権を侵害するか
被控訴人製品に含まれるポリアリルアミンの重量平均分子量は、原審で原告が提出した証拠によると「9470」、控訴審で原告が提出した証拠によると「5190」です。したがって被控訴人製品は訂正後の本件請求項3を侵害すると判断されました。
2)訂正後の本件に無効理由があるか
本件出願前に販売された被控訴人製品に含まれるポリアリルアミンの重量平均分子量は、原審で被告が提出した証拠によると、「45000」です。したがって、訂正後の本件請求項3の発明は本件出願前に公然実施されておらず、無効理由はないと判断されました。
3)判決の概要
被控訴人の製品の製造販売等の差止と、製品の廃棄と、496,000円の損害賠償とが認められました。
3.まとめ
特許権侵害訴訟では、思いがけない無効理由が、被告側から主張される場合があります。無効理由を解消するには、訂正審判が有効です。ただし、訂正できるのは出願時の明細書に記載している範囲に限られますし、権利範囲を拡げることはできません。
出願時の明細書の記載の充実は、将来の権利行使にも有効です。
◆ 特許権侵害訴訟に関するご相談は河野特許事務所までお気軽にお問い合わせください。
Copyright(c) 河野特許事務所