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方法クレームに米国特許法第271条(f)は適用されない

~米国特許法第271条(f)に対する大法廷判決~

Cardiac Pacemakers, Inc., et al.,
Plaintiffs- Appellants,
v.
St. Jude Medical, Inc., et al.,
Defendants-Cross Appellants.

執筆者 弁理士 河野英仁
2009年10月9日

1.概要
特許製品の米国外への輸出行為は販売行為に該当し、米国特許法第271条(a)*1に規定する特許権侵害となる。一方、特許製品をバラバラにした構成部品を米国外へ輸出する行為は、第3者が輸出先で当該構成部品を組み立てて特許製品を完成させたとしても、米国特許法第271条(a)に規定する特許権侵害とならない。

 この場合、域外適用を規定する米国特許法第271条(f)が適用される。米国特許法第271条(f)は、最終的な組み立てを外国で行わせる意図をもって、完成品の構成部品を輸出する行為を防止すべく1984年に制定された。

 本事件においては、方法クレームに権利が付与されており、方法クレームの各ステップを外国で実施させるために、当該方法に使用する製品を輸出する行為が、米国特許法第271条(f)に規定する特許権侵害行為に該当するか否かが問題となった。

 地裁及びCAFCは過去の判例から特許権侵害に該当すると判断した。被告はこれを不服としてCAFC大法廷での再審理を申し立てた。CAFCは当該申し立てを受理すると共に、当該争点について再審理を行い、方法クレームについては米国特許法第271条(f)が適用されないと判示した。


2.背景
Cardiac Pacemakers社等(以下、C社という)は植込み型除細動器(Implantable Cardioverter Defibrillators (以下、ICDという))に関するU.S. Patent No. 4,407,288(以下、288特許という)を所有している。ICDは放置しておけば致命傷となる異常心臓鼓動を検出し、治療を行う小型の装置である。本事件におけるICDは心臓に電気ショックを与え、当該電気ショックにより心臓機能を通常の状態へ復元させる。図1はICDのハードウェア構成を示すブロック図である。

ICDのハードウェア構成を示すブロック図
図1 ICDのハードウェア構成を示すブロック図

C社は288特許の他数多くの特許を所有している。288特許はICD10を用いる心臓刺激方法をクレームしている。ICD10は入力ステージ12を介して心臓の不整脈・異常心臓鼓動を検出し、単一または複数のモードを通じて不整脈を治療するようプログラムされている。複数モードの場合、出力ステージ22を介して心臓に第1ショックを与え、第1ショックによる治療が成功しなかった場合、第2ショックを施す。これにより、不整脈が発生した心臓を治療する。

 クレーム1~9までが方法クレームであり、クレーム10~37までが装置クレームである。争点となったクレーム4*2は以下のとおりである。なお、クレーム4は独立クレーム1の従属クレームである。

1.複数の不整脈を検出し、検出した不整脈を治療すべく単一または複数モードの操作を実行するようプログラムされた植込み型心臓刺激装置を用い、前記操作モードに対応する心臓刺激方法であって以下を含む、
(a)複数の心臓の状態の中から心臓状態を決定し、
(b)植込み型心臓刺激装置の少なくとも一つの操作モードを選択し、当該操作は前記決定した状態に対応するイベントの固有シーケンスを含み、
(c)前記植込み型心臓刺激装置の少なくとも一つの操作モードを実行し、これにより前記決定した心臓状態を治療する。
4. クレーム1の方法であって、前記植込み型心臓刺激装置の少なくとも一つの操作モードは電気的除細動を含む。

 1996年C社は288特許の侵害であるとしてSt. Jude Medical社等(以下、S社という)をインディアナ州連邦地方裁判所へ提訴した。S社もICD(以下、イ号製品という)を製造及び販売しており、一部を米国外へ輸出している。S社は288特許に係る発明は自明(米国特許法第103条*3)であり、288特許は無効であると主張した。さらにS社はクレーム4の「決定ステップ(クレーム1の(a))」がMeans Plus Functionクレーム(米国特許法第102条パラグラフ6*4)であると主張し、特許権の侵害にはあたらないと主張した。すなわち、決定ステップは実施例に記載の構成及びその均等物に限定解釈され、特許権侵害に該当しないとの主張をなした。地裁はS社の主張を認め、288特許は自明、また、特許権侵害は成立しないとの判決をなした*5

 C社は地裁の決定を不服としてCAFCへ控訴した。CAFCは、288特許は自明でなく、特許が無効であるとした地裁の判断を無効とする判決をなした。さらにCAFCは、またクレーム4がMeans Plus Functionクレームであると判断した地裁の判断を無効とする判決をなした*6

 2度目の地裁における審理において、地裁はイ号製品の使用が方法クレーム4の特許権侵害であると判断した。なお、C社は装置クレームに対する特許権侵害の主張を取り下げた。

 損害賠償額の認定において、C社はS社が米国外へ輸出したイ号製品をも損害額に加えるべく、域外適用を規定する米国特許法第271条(f)を主張した。地裁はクレーム4を外国で実施すべくイ号製品を輸出したS社の行為は米国特許法第271条(f)のもと、特許権侵害に該当するとの判決をなした*7

 S社はCAFCへ交差上訴*8した。CAFCはイ号製品の輸出行為は方法クレーム4の特許権侵害とする地裁の判断を支持した*9。S社はこの点についてCAFC大法廷での再審理の申し立てを行い、CAFC大法廷は当該申し立てを受理した*10


3.CAFCでの争点
米国特許法第271条(f)が方法クレームに対して適用されるか
 米国特許法第271条(f)*11は以下のとおり規定している。

(1)特許発明の構成部品(components)の全てまたは要部を、米国内もしくは米国外へ許可なく供給し(supplies)、または供給せしめた者は、そのような構成部品が、全体もしくは部分的に組み立てられていないが、米国内で組み立てられるような状態にあり、もし米国内で組み立てれば特許権を侵害するものであるとき、侵害の責任を負うものとする。ただし、積極的に組み立てを示唆している場合に限る。
(2) 何人かが権限を有することなく,特許発明の構成部品であって,その発明に関して使用するために特に作成され又は特に改造されたものであり,かつ,一般的市販品又は基本的には侵害しない使用に適した取引商品でないものを,当該構成部品がその全部又は一部において組み立てられていない状態において,当該構成部品がそのように作成され又は改造されていることを知りながら,かつ,当該構成部品をその組立が合衆国内において行われたときは特許侵害となるような方法により合衆国外で組み立てられることを意図して,合衆国において又は合衆国から供給した又は供給させたときは,当該人は,侵害者としての責めを負わなければならない。


 271条(f)の趣旨はその立法過程を通じて理解することができる。本法は議会がDeepsouth事件最高裁判決*12を受けて1984年に追加したものである。Deepsouth事件では、エビの背わた抜き装置に特許が付与されており、特許権者の許可を受けていない製造者が、米国内で組み立てられていない完成前の構成部品を輸出する行為が侵害とならないと判示された。議会はこの特許法の抜け穴を防ぐべく、完成前のセット部品の輸入または輸出行為を侵害行為とする第271条(f)を立法した。

 S社はイ号製品(ICD)を米国で製造及び販売している。S社はイ号製品を外国へ輸出している。米国外で方法クレームの各ステップを実施させるために、イ号製品を構成部品として米国外へ輸出する行為が、米国特許法第271条(f)のもと方法クレームの侵害行為に該当するか否かが問題となった。


4.CAFC大法廷の判断
方法クレームに米国特許法第271条(f)は適用されない
 CAFC大法廷は、方法クレームに米国特許法第271条(f)が適用されるとした地裁の判決を無効とする判決をなした。

 米国特許法第271条(f)は重要な条文であり、数々の事件においてその解釈が争われている*13。ただし、主要判決は装置クレームに対する法解釈を示すのみである。方法クレームに対する米国特許法第271条(f)の適用に関しては、CAFCが2005年に判決したUnion Carbide事件*14が参考となる。

 Union Carbide事件の概要を説明する。原告であるUnion Carbide社はU.S. Patent No. 4,916,243 (以下243特許という)を所有している。243特許は触媒を用いてエチレンオキシドを生成する方法をクレームしている。一方被告であるShell社は外国で当該方法を実施すべく、当該方法に用いる触媒を米国外へ輸出していた。

 Union Carbide社はこの触媒を米国外へ輸出する行為は、米国特許法第271条(f)のもと方法クレームの侵害に該当すると主張した。CAFCは、当該触媒は方法クレームを外国で実施するための構成部品(components)に該当し、この触媒を外国へ供給(supply)する行為は、米国特許法第271条(f)のもと方法クレームの侵害に該当すると判示した。

 C社はUnion Carbide事件における判例、及び、米国特許法第101条の規定に基づき、米国特許法第271条(f)は方法クレームにも適用されるべきであると主張した。

 米国特許法第101条*15は以下のとおり規定している。
 第101条 発明は特許を受けることができる
新規かつ有用な方法,機械,製造物若しくは組成物,又はそれについての新規かつ有用な改良を発明又は発見した者は,本法の定める条件及び要件に従って,それについての特許を取得することができる。


 C社は米国特許法第101条には「発明」の定義がなされており、同法には「発明」として「方法」と「機械」とが同列で規定されていることから、米国特許法第271条(f)における「特許発明」も同様に「方法」と「装置」とが含まれると主張した。

 CAFC大法廷はC社の当該主張を退けた。CAFC大法廷は、法解釈はそのように簡単なものでなく、議会がなした立法過程をも考慮して分析しなければならないと述べた。

 議会は、Deepsouth事件における判示事項を覆す意図を持って米国特許法第271条(f)を制定した。Deepsouth事件はエビの背わた抜き装置を取り扱っており、当該装置の「物理的構成部品」の輸出が問題となった。議会は特許権侵害を回避すべく未完成の状態で構成部品群を輸出するという法律の抜け穴を埋めるべく、米国特許法第271条(f)を制定したのである。このように議会の立法趣旨からすれば、議会は方法発明を保護する意図を持っていたとはいえない。

 以上のことから、CAFC大法廷は方法クレームに米国特許法第271条(f)が適用されないと結論づけた。


5.結論
CAFCは、米国特許法第271条(f)を適用し特許権侵害が方法クレームに成立するとした地裁の判決を無効とした。


6.コメント
Union Carbide事件においてなされた判示事項はCAFC大法廷判決により覆され、方法クレームに対しては米国特許法第271条(f)が適用されない点が明らかになった。ただし方法クレームの他に装置クレームが存在していれば、装置の輸出により直接侵害を米国特許法第271条(a)により問うことができ、また完成品をバラバラにして構成部品を輸出する行為に対しても米国特許法第271条(f)を依然として主張することができる。

 本事件においては訴訟の過程において非自明性の問題等により、C社が装置クレームによる侵害主張を放棄したことから、方法クレームに対する米国特許法第271条(f)の適用の是非が争われた。クレーム作成の際には、特許製品の流通形態を発明者から適切に聞き出し、状況に応じたクレームカテゴリーにてクレームドラフティングをする必要があるといえよう。

判決 2009年8月19日
以上
【関連事項】
判決の全文は連邦巡回控訴裁判所のホームページから閲覧することができます[PDFファイル]。
http://www.cafc.uscourts.gov/opinions/07-1296.pdf

【注釈】
*1 米国特許法第271条(a)の規定は以下のとおり。
第271条 特許侵害
(a) 本法に別段の定めがある場合を除き,特許の存続期間中に,権限を有することなく,特許発明を合衆国において生産し,使用し,販売の申出をし若しくは販売する者,又は特許発明を合衆国に輸入する者は,特許を侵害することになる。
特許庁HP
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/shiryou/s_sonota/fips/mokuji.htm
参照。
*2 288特許のクレーム1及び4は以下のとおり。
1. A method of heart stimulation using an implantable heart stimulator capable of detecting a plurality of arrhythmias and capable of being programmed to undergo a single or multi-mode operation to treat a detected arrhythmia, corresponding to said mode of operation the method comprising:
(a) determining a heart condition of the heart from among a plurality of conditions of the heart;
(b) selecting at least one mode of operation of the implantable heart stimulator which operation includes a unique sequence of events corresponding to said determined condition;
(c) executing said at least one mode of operation of said implantable heart stimulator thereby to treat said determined heart condition.
* * *
4. The method of claim 1, wherein said at least one mode of operation of said implantable heart stimulator includes cardioversion.
*3 米国特許法第103条の規定は以下のとおり。
第103条 特許要件;自明でない主題
(a) 発明が,第102条に規定するのと同様に開示又は記載がされていない場合であっても,特許を受けようとするその主題と先行技術との間の差異が,発明が行われた時点で,その主題が全体として,当該主題が属する技術の分野において通常の知識を有する者にとって自明であるようなものであるときは,特許を受けることができない。特許性は,発明の行われ方によっては否定されない。
前掲特許庁HP
*4 Means Plus Functionクレーム(MPFクレーム)は”means for ~ing (~する手段)”の如く具体的な構造を特定することなく、作用的な記載とするクレーム形式である。作用的な記載を認める代償として、その権利範囲は実施例に記載された構造等及びその均等物に限定解釈される。MPFクレームに関する根拠条文は米国特許法第112条パラグラフ6である。米国特許法第112条パラグラフ6は、以下のとおり規定している。
「組合せに係るクレームの要素は,その構造,材料又はそれを支える作用を詳述することなく,特定の機能を遂行するための手段又は工程として記載することができ,当該クレームは,明細書に記載された対応する構造,材料又は作用,及びそれらの均等物を対象としていると解釈されるものとする。」
前掲特許庁HP
*5 Cardiac Pacemakers, Inc. v. St. Jude Med., Inc., No. IP-96-1718-C, 2002 U.S Dist. LEXIS 14767, at *7 (S.D. Ind. July 5, 2002)
*6 Cardiac Pacemakers, Inc. v. St. Jude Med., Inc., 144 F. App’x 106 (Fed. Cir. 2005)
*7 Damages Decision, 418 F. Supp. 2d at 1042-44
*8 交差上訴(Cross-Appeal)とは下級裁判所の判決後に、控訴された側が行う控訴をいう。
*9 Cardiac Pacemakers, Inc. v. St. Jude Med., Inc., 303 F. App’x 884 (Fed. Cir. 2008)
*10 en banc:大法廷(オンバンク)。事件の重要性に鑑み、裁判官全員によるヒアリングが行われる。Cardiac Pacemakers, Inc. v. St. Jude Med., Inc., No. 07-1296, -1347, 2009 U.S. LEXIS 4379 (Mar. 6, 2009).
*11 米国特許法第271条(f)は以下のとおり。
(f)(1) Whoever without authority supplies or causes to be supplied in or from the United States all or a substantial portion of the components of a patented invention, where such components are uncombined in whole or in part, in such manner as to actively induce the combination of such components outside of the United States in a manner that would infringe the patent if such combination occurred within the United States, shall be liable as an infringer.
(2) Whoever without authority supplies or causes to be supplied in or from the United States any component of a patented invention that is especially made or especially adapted for use in the invention and not a staple article or commodity of commerce suitable for substantial noninfringing use, where such component is uncombined in whole or in part, knowing that such component is so made or adapted and intending that such component will be combined outside of the United States in a manner that would infringe the patent if such combination occurred within the United States, shall be liable as an infringer.
前掲特許庁HP
*12 Deepsouth Packing Co., Inc. v. Laitram Corp., 406 U.S. 518 (1972)
*13 例えばAT&T最高裁判決が参考となる。Microsoft Corp. v. AT&T Corp., 550 U.S. 437, 444 & n.3 (2007) 拙稿「Microsoft Corporation v. AT&T Corp. 域外適用を規定する271条(f)のソフトウェア特許に対する抜け穴」知財ぷりずむNo.58 2007年7月号参照
(http://www.knpt.com/contents/cafc/2007.0501/2007.0501.htm)
*14 Union Carbide Chemicals & Plastics Technology Corp. v. Shell Oil Co., 425 F.3d 1366 (Fed. Cir. 2005)
*15 米国特許法第101条の規定は以下のとおり
35 U.S.C. 101Inventions patentable.
Whoever invents or discovers any new and useful process, machine, manufacture, or composition of matter, or any new and useful improvement thereof, may obtain a patent therefor, subject to the conditions and requirements of this title.
前掲特許庁HP

◆ここに示す判決要約は筆者の私見を示したものであり、情報的なものにすぎず、法律上の助言または意見を含んでいません。ここで述べられている見解は、必ずしもいずれかの法律事務所、特許事務所、代理人または依頼人の意見または意図を示すものではありません。

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